当初の予定では9月18日(日)の開催でしたが、台風14号襲来のため急遽1週間延期しました。そのために来られなくなった方もいましたが、ほとんどの方は参加できほぼ定員が埋まりました。よかったです。
そして講師の四元 誠さんは、スライドは使わず大量の絵本を持ち込み、1冊ずつ手に取りながら時代と絵本の移り変わりについて熱っぽく語ってくださいました。終了予定時刻を過ぎても全く終わる気配がないので(笑)、一度トイレ休憩を設けて再開。結局1時間近くも予定をオーバーして話してくれました。
参加者のみなさんも「この内容が1000円では安い!」「また聞きたい!」と非常に喜んで下さいました。余りにも反応が良かったので、また四元さんに話していただこうと考えています。
さて、その内容ですが、なにしろ2時間半くらいの講演でしたのでほんのサワリだけご紹介します。
話は大正時代の「子供之友」「コドモノクニ」といった絵雑誌から始まります(タイトルに「昭和・平成〜」とあるのに大正時代から始まるのはご愛敬(笑))。特に純粋に子どもを楽しませたいというテイストの「コドモノクニ」は、後の時代の絵本編集者にも影響を与えました。そして毎号テーマを決めて編集するという点で画期的だったのがフレーベル館の『キンダーブック』です。
戦争中は、絵本も戦争遂行に協力させられます。当たり前ですが、この時期の絵本には面白いものがないそうです。しかし国策への協力という大義名分があったため、むしろこの機会を捉えて多くの絵本が出版されたのだそうです。
戦争が終わって生活が落ちついた1950年代は、絵本の黄金時代です。1953年、岩波書店が「岩波子どもの本」というシリーズを刊行。判型を小さくして安くし、絵本が身近なものになりました。さらに3年後の1956年、福音館書店が「こどものとも」の刊行を開始。編集者たちも迷いながら、新しい時代の絵本をつくっていきました。
高度経済成長期の1960年代には、日常の中にファンタジーが自然と混じり合うテイストの本が急に増えます。例えば『だるまちゃんとてんぐちゃん』(かこさとし)などです。また車社会となり、『とらっくとらっくとらっく』『のろまなローラー』などリアルに描いた車を主役とした絵本が増えるのもこの頃です。さらに弱者に目を向けるような絵本も増えてきます。
ちなみにかこさとしは東大を出た技術者で、日本の科学絵本を引っ張った存在でもあるそうです。知らなかった!
海外のお話を積極的に紹介するようになったのもこの頃。『スーホの白い馬』は今でも広く親しまれています。
そして、こぐま社が斬新な編集方針を打ち出し、それがその後の大きな潮流になっていきます。それまでの絵本は、お話が中心でそれに絵を添えるという形で制作されていたのに対し、作家と画家がタッグを組み、あるいは絵と文を同じ作家が手がけるようにしたのです。これで”絵本作家”が生まれることになります。『ぐりとぐら』なんかもそうですね。
1970年代は、経済成長の弊害が出てきたり、精神的な豊かさや心の内面に注目されるようになってくる時期。絵本も『はじめてのおつかい』『おしいれのぼうけん』など子どもの不安な心を描いています。また作家性の強い絵本も登場。中でも『100万回生きたねこ』は、子どもに真正面から”死”を突きつけた、という名作中の名作。
経済的にはバブルで浮かれていた1980年代には、絵本にもそれまでにない新潮流が登場します。例えば文字のない絵だけの絵本とか、絵ではなく写真で構成された絵本(写真絵本)、さらに長新太に代表されるナンセンス絵本などが登場します。また『こんとあき』といった心の内面が丁寧に書かれる絵本も多いそうです。
そして、絵本でも太平洋戦争を振り返るようになります。その極北が『ひろしまのピカ』。目を覆いたくなるような惨状を絵本で表現し、バブルで浮かれた時代に鉄槌を下しました。さらに障害者からの告発も、その心情を率直に表現した絵本で行われます。『わたしいややねん』は傑作です。
1985年には福音館書店が「たくさんのふしぎ」を刊行開始。身近なものから世界を知れる、大人でも面白いシリーズです。第1号は『いっぽんの鉛筆のむこうに』。流通の仕組みや、世界と日本がどう繋がっているのかをいっぽんの鉛筆を通じて描いています。
1990年代、いよいよバブルが崩壊します。バブルと関係あるのかないのか、ストーリーを追うのではなく、子ども自身に考えさせるような本も登場。例えば五味太郎『質問絵本』は絵を見て子どもたちが楽しく遊べるような本で、今の子どもにも人気だそうです。しかし90年代の絵本には今に残っているようなものはあまりない、という四元さんの言葉が印象的でした。
2000年代には、絵本の世界に全く違うムーブメントが訪れます。それは「読み聞かせブーム」! それまでは親が子に読み聞かせるといったプライベートな営みであったのが、幼稚園や学童のような場所で一対多の読み聞かせが行われるようになるのがこの時期。てっきり昔からそういう読み聞かせがあったと思っていました。一対多の読み聞かせをスムーズに行うため、絵本の絵がわかりやすく大きなものとなり、色使いもヴィヴィッドになります。
2010年代は、絵本の世界も東日本大震災の影響を大きく受けます。震災を描いたものだけでなく、”日常”のかけがえのなさを描く絵本や、喪失感に寄り添うような絵本が明らかに増えるそうです。もちろん災害に関する本もたくさん。特に原発事故後も牛を飼い続けた『希望の牧場』はオススメだそうです。
そして2020年代、絵本はより多様性を描くようになっていきます。直接には障害者のことをテーマにしていないのに仄かにそれを感じさせる『さかなくん』、新しい家族の形を肯定的に表現した『ピアキのママ』、ネズミとハリネズミを登場させて異文化理解を促す『はじめてのともだち』といった新しいタイプの絵本が次々紹介されました。子どもの頭をかき混ぜるようなヨシタケシンスケ『りんごかもしれない』も今の時代ならではの表現。動画に慣れた子どもに合わせて”動画風”の画面構成をした絵本なんかも出ているそうです。
最後に、LGBTQの存在を描いた『すきって いわなきゃ だめ?』の読み聞かせが行われ、大盛況のうちに幕を閉じました。四元さんの溢れんばかりの熱意が伝わったと思います。ありがとうございました!
なお、次回の「そらまどアカデミア」は時期・内容ともに未定です。またご案内いたしますのでお楽しみに!
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