2026年10月5日月曜日

第25回そらまどアカデミア開催しました。超巨大ブラックホールの周りには…⁉


第25回そらまどアカデミア「ブラックホールと鹿児島の天文学研究」を開催しました。

これまでのそらまどアカデミアは、全て人文的なテーマで開催してきました。しかし実は、店主(私)は理系の大学を出ています。そこで理系的テーマにも取り組みたいとずっと思っており、何が皆さんにとって面白いかなあと考えていました。そんな時、宇宙に関する新発見のニュースが立て続けに報道された時があって、「そうだ、宇宙なら多くの人が関心がありそうだ」と思って、大学の同窓会を通じて紹介してもらったのが、今回ご講演いただいた和田桂一先生です。

和田先生は鹿児島大学の「天の川銀河研究センター」のセンター長をしており、理論天文学を専門にしています。無茶苦茶難しい学問だと思いますが、今回はこちらから「中学生にも分かるように講演してもらえるとうれしい」と要望しておりましたので、非常に基本的なところから教えていただきました。なお、小学生・中学生・高校生が参加してくれました(ちなみに中学生以下は無料です)。

まず、そもそも天文学とはどんな学問か、ということですが、天文学には2つの研究手法があり、それは「観測」と「理論」だということです。他の理学系学問ではこの他に「実験」があるのですが(というか「実験」がメイン)、天文学の場合、「実験」はしようがないのでありません。

「観測」は、宇宙を望遠鏡で見るということです。これには屈折望遠鏡(レンズを使う)、反射望遠鏡(鏡を使う)があり、それぞれ可視光、赤外線、X線などさまざまな波長の光(電磁波)を観測するものがあります。例えば日本(国立天文台)が持っている「すばる望遠鏡」はハワイのマウナケア山頂にあり、直径8.2mの光学赤外線反射望遠鏡です。

望遠鏡の直径は大きければ大きいほど多くの光を集められるため高性能であり、この8.2mというのは世界最大級の大きさになります。また望遠鏡は空気の揺らぎや水蒸気、地上の光、震動といったものにも敏感で、そもそも天候が悪いと観測できないので、乾燥した高地の方が適しています。日本を含む各国が協力して造ったALMA(アルマ)望遠鏡は、南米チリの5100mの高地(アタカマ砂漠)にあり、ここにはたくさんの電波望遠鏡が設置され、それが連動することで非常に高い解像度を誇っています。

アタカマ砂漠の和田先生[和田先生提供]

しかしどんな高地でも地上である以上、大気の揺らぎからは逃れられません。そこでアメリカは宇宙空間に望遠鏡を置くことにし、ハッブル宇宙望遠鏡を打ち上げました。これは目覚ましい成果をあげ、最近その後継機として打ち上げられたのがJWSTという宇宙望遠鏡です。ハッブル宇宙望遠鏡は地球の周り(近く)を周回しているのですが、JWSTは地球と同じように太陽の周りを(地球と同じペースで回るちょうどいい位置で)周回するものです。地球からの距離はなんと150万㎞! 地球と月の間の距離がおおよそ40万㎞なので、その4倍にもなる遠さです。 

ところで、アメリカはこのJWSTに1兆円もかけたそうですが、なんと世界中の研究者が無料で使うことができるんだそうです。もちろん無料といっても、申請して認められればの話ですが、博物館まで金を稼ぐことが目標になっている日本との大きな文化力の差を感じました。

日本でも宇宙望遠鏡を打ち上げており、2023年に打ち上がったのがXRISM(クリズム)というX線を観測する人工衛星です。これもたくさんの素晴らしい成果を上げているそうです。

そして実は、鹿児島にも望遠鏡があります。それが入来(いりき)にあるVERA望遠鏡とその近くにある入来1m光赤外線望遠鏡です。VERA望遠鏡は国立天文台が設置したもので、他に石垣島、小笠原、岩手の水沢に全く同じものがあり、計4台を連動させて仮想的に大きな望遠鏡となるものです。一方、入来1m光赤外線望遠鏡は鹿児島大学が所有しており、なんと国内の光赤外線望遠鏡では7番目の大きさ、九州では一番大きいそうです。

このように、天文学では「観測」が非常に重要で、世界中が協力して観測機器を設置し共同で利用しているのですが、和田先生の専門は「理論」です。「理論」とは、簡単に言うと方程式を解いて宇宙がどうなっているかを予測するということ。

方程式を解く、というのは、紙と鉛筆で計算して答えを求める、というのが基本になりますが、そこで扱う方程式はあまりに複雑で膨大なため数学の問題集のようにキレイに解けないことが多く、現実的にはコンピュータで近似値を求めるということになります。それに先ほど言ったとおり天文学では「実験」ができません。宇宙のふるまいには、超高温、超高密度、超真空、超強力磁場など地球上では再現できない条件が多く、またその変化は何億年や何十億年もの長時間を要します。そこでコンピュータで宇宙のふるまいをシミュレーションし、それが現実と合致しているかどうかを調べることで理論の正しさを裏付けるわけです。そんなわけで、和田先生は「理論天文学者は、望遠鏡じゃなくてほとんどパソコンの画面を見ています」と言っていました。 

具体的には、(1)現象を単純化しモデル化する、(2)基礎方程式を決める、(3)それに基づいてプログラムを書く、(4)初期条件・境界条件を与える、(5)パソコンやスパコンで計算する、(6)結果を可視化する(グラフィック化するなど)、(7)その結果が現実と合致しているか検証する、(8)論文を書く、という流れになりますが、2025年くらいからAIが(3)〜(6)の作業を出来るようになって、現在理論天文学の世界でも大きな変化が訪れているということでした。

次に、今回のテーマであるブラックホールの話です。ブラックホールとは光すら脱出できない天体のことです。「穴=ホール」という語感から、当日の会場にも宇宙に穴が開いているようなイメージを抱いている方もいましたが、これは空間の歪みをわかりやすく2次元的に表現して穴みたいに描かれるためで、実際には穴ではなく4次元(空間3次元+時間1次元)の時空の歪みであり、れっきとした天体です。

ブラックホールは、アインシュタインの相対性理論によって予言され、最初は仮想的なものだったそうです。光が出てこないため観測も不可能で、当初はあるのかないのか分からないものでした。しかしその後、間接的な証拠からブラックホールが実在することは確かめられています。

そして最近では、ブラックホールには2種類あると考えられるようになりました。

第1が、太陽程度の重さのブラックホールです。恒星(太陽のように自分で輝いている星)には、寿命があります。重い(質量の大きい)恒星ほど寿命が短く、太陽は割と軽い方で長い寿命を持っています。そして恒星の寿命が尽きると超新星爆発が起こり、ある一定以上の重い星がブラックホールになります。こうして生まれたブラックホールが第1の種類で、これは銀河系に○○個くらいあるそうです。

第2が、 太陽の100万倍〜10億倍もの質量の、途方もなく大きな超巨大ブラックホールです。これは宇宙全体で数万〜10万個くらいではないか、とのこと。

じゃあその中間の大きさはないのか? というと、理論的に全く存在しないとはいいきれず、もしかしたら観測できていないだけかもしれないので現時点では不明としつつも、そのようなブラックホールがどのように出来るかを考えると例外的な存在であろう、とのことでした。

では第2のブラックホールがどうやってできるのかというと、銀河の中心で生まれます。銀河の中心には非常に大量の星が犇めいているのですが、この多くの星が合体することで超巨大ブラックホールが発達したと考えられます。超新星爆発を経ないで生まれるのが超巨大ブラックホールです。

天の川銀河の中心にあるこの超巨大ブラックホールの存在を確かめ、その業績で2020年のノーベル物理学賞を受賞したのがラインハルト・ゲンツェル先生! 先ほど書いたとおり、銀河系の中心は非常に多くの星がある特別な場所です。銀河系の多くの場所では、ほぼ星は静止していて(あくまでも人間の尺度では、の話)、長い時間観測していても動かないのですが、銀河系の中心では星が動いていることが観測できます。そこでゲンツェル先生は、ここを継続的に観測すれば何か面白い現象があるかもしれないと考えて10年銀河系の中心を観測し続けました。すると、ある恒星がすごいスピードでクイッとターンしていることを発見し、そこに見えないけれども超大質量の天体があることがわかりました。これが超巨大ブラックホールなのです。

それにしても、何にもならないかもしれないのに10年も観測し続けるってすごいですね。20年以上天体を観測し記録し続けたティコ・ブラーエのおかげでヨハネス・ケプラーは「ケプラーの法則」を発見しますが、ケプラーもすごいけどティコ・ブラーエがすごいなと私は思います。

そして和田先生は、この超巨大ブラックホールの周りで何が起こっているのかということについて研究しました。こちらは、超巨大ブラックホールの周辺を描いた図です。 

超巨大ブラックホール[和田先生提供]

「光すら脱出できない天体」なのにすごく輝いているな? と思いますよね。これはブラックホール本体ではなく、その周りが光っているのです。その正体は、宇宙にある「ダスト」という塵! これは0.1〜1μm(マイクロメートル)の固体の微粒子で、これはタバコの煙くらいの大きさです。宇宙には超新星爆発の後の残骸がダストとして浮遊しています。超巨大ブラックホールは、このダストを広範囲から引き寄せるため、その周辺は大量のダストが集まります。しかも非常に強い重力によってダストは高速で回転し、その速度は秒速○○kmにもなります。このように超高速で回転することでダストは1億度もの高温になり、強い光を発するのです。

ブラックホールだからダストは吸い込まれるんじゃないの? と思うかもしれませんが、回転による遠心力と重力が釣り合ってなかなかブラックホールには落ち込まず、長期間にわたりダストがブラックホールの周りを回転し続けるわけです。

「これは、太陽系において地球などの惑星が出来る環境と似ている」というのが和田先生のアイデアです。 太陽系では、46億年前、太陽の周りをダストが回り、そのダストがお互いの重力によって長い時間かけて集積して惑星が出来ました。ダストは惑星の原料なのです。

惑星は、当初は太陽系以外では見つかっていなかったのですが、1994年に太陽系外に初めて惑星が見つかり、今では6000個以上の系外惑星が発見されています。ダストが長期間にわたり集積するという環境があるならば、超巨大ブラックホールにも惑星があってもおかしくない、ということで、和田先生は○○年に発表した論文で、超巨大ブラックホールの惑星を「Blanet(ブラネット)」と名付け予言しました。これはもちろん「Black hole planet」から名付けたものです。先ほどのイラストにある手前の惑星が、この「Blanet」です。

「Blanet」は、2026年に発行されたフランスの科学雑誌「Epsiloon」に表紙で取り上げられました。ブラックホールにも惑星(ブラネット)があるかもしれない、なんてSF的に考えるとすごく面白いですよね。もしかしたら、ブラネットにも生命が誕生するかもしれないわけです。ブラネットに生命が誕生し、それが文明を持つようになったらどんな存在になるでしょうか。ブラネットの一年(ブラックホールを1周する時間)は10万年にもなるそうです。そこで生まれた文明は、きっと1年を経験しないうちに滅びるでしょうね…(苦笑)。

ところで、最後には活発な質疑応答が行われたのですが、その中で「鹿児島で天文学研究をする意味とは」というものがありました。先ほど書いたとおり、入来に望遠鏡が設置されているのは日本を広くカバーするVERA望遠鏡の性質上、本土の端にある鹿児島が都合がよかったからですが、和田先生は「天文学の研究は世界のどこでもできます!」とも言っていました。アメリカが1兆円かけたJWSTが世界の誰でも使えるように、天文学には世界の垣根がなく、しかも観測成果も一定期間経過したらそれが公開されデータベースにより誰でも参照できるようになっています。地上にある望遠鏡もリモート操作が可能であり、そこに行く必要はないんだとか。確かにわざわざマウナケアの山頂とかアタカマ砂漠に行かないと観測できないとしたら大変すぎます。

ということは、鹿児島にいても世界最先端の研究ができるということになります。鹿児島は日本の本土の端ですし、様々なことで僻地の不利さがあると思います(特に進学!)。しかし天文学では、鹿児島にいながらも世界中の研究者と同じ条件で研究ができる! これってとても面白いなと思いました。

「そらまど」もすごく辺鄙なところにあるので僻地の不利を日々感じているところですが、僻地が不利にならないような取り組みをしていきたいと考えています。