2022年6月12日日曜日

第1回そらまどアカデミア開催しました! ふるさとの景観の価値について

6月12日(日)、「第1回そらまどアカデミア」開催しました。

広報はSNSとチラシのみでしたが、定員15名がすぐに埋まりました。お越しくださった皆様、ありがとうございました。

第1回のテーマは鹿児島市立図書館長の井上佳朗さんによる「故郷の景観と心のパースペクティブ~景観がもたらす精神的価値と地域価値~」でした。

平たくいうと、「ふるさとの景観はどんな価値があるのか?」という内容です。

講演ではまず「景観と人との間には確かな絆が存在する」とし、その絆の内容について繙かれました。ある種の景観は人にメッセージをくれ、それは受け取った人によって解釈されます。幼少期から青年期に出会ったそういう風景は、ことあるごとに再生・再構築されて「原風景」として心の中に定着していきます。

もちろん、景観そのものにはメッセージは含まれていません。しかし一人で自然の景観の前にたたずむと、「雄大な自然」と「小さな自己」、「悠久の時間」と「 一瞬の人生」など、景観によって自己が相対化(客体化)されることになり、それが理屈を超えた理解(アハ体験)をもたらすのです。そして特に幼少期から青年期の景観は、自己の成長の記憶を内包したものとなり、アイデンティティの形成に重要な役割を果たします。

つまり、原風景とは自分が「原点回帰」できるものとなるのです。

こうした景観は多くが遠景(山とか海とか)なのですが、一方で近景(家並み、街並み)についてはまた別の力学が働きます。それは、近景は人間の活動によって作られるので、自己を客体化するというよりは、「公と私」の分かちがたい関係を想起させます。つまり「私」もその景観を作っていくことに参与せざるをえない。そして個々が勝手に自分の好みで家や庭や商店を作っていくと景観は乱れていくため、近景を維持していくにはコミュニティの総意が大事になります。近景はコミュニティの姿である、といってもいいのかもしれません。

それから話の中で「シークエンス景観」という用語が出てきました。これは、例えば曲がりくねった狭い路地を歩いていて見る風景のような、「移動によって次々に現れる景観」のことだそうです。次々に現れるということは、つまり全体像は見えていないわけで、普通「景観」というと見晴らしの良い場所、展望台のような所からの風景と思うわけですけど、「見え隠れする景観」というのにも面白い価値があるんだ、というお話でした。

我々は、何であれ「どこか」で経験します。

よって、出来事はそれが起こった「場所」とともに記憶されます。景観は、単なる背景ではなく、「体験の記憶」と深く関わっているのです。そして原風景のような景観には、とても重要な記憶、それこそ「私が私であるための記憶」のようなものが埋め込まれていると言っても過言ではありません。

また、それは個人的なものであるとともに、地域や日本人といったレベルでも「大事な景観」があり、そうしたものの価値に目を向けることが大事です。

講演後の質疑の時間では、私から「鹿児島では山形屋に行ったことが幼少期の大事な記憶だという人が多いように、自然の景観だけでなく街並みも原風景としての価値が大きい。しかし街並みはどんどん変わっていく。都市の景観はどう維持していくべきだと思うか」といった質問をしたところ、「高度経済成長期以降の日本は、そもそも維持したいような街並みを作ってこなかった。なんでも安普請で済ませることをやめ、少しお金はかかってもみんなで維持したいと思う建物を作らないかぎり、都市景観の保全をしていくことはできない」という見事に本質を突いた回答を下さいました…。

実際の講演では、もちろん上記にまとめたような話だけでなく、景観をテーマにしつつも、視野の広い多様な話題が盛り込まれており、景観の価値について多面的に見直す場になったのではないかと思います。

現在、鹿児島ではドルフィンポート跡地の新県立体育館や、巨大風力発電所計画など、景観の面でも大きな影響をもたらす事業が浮上しています。

しかし、景観というのは、観光資源でないかぎりは特に何円で評価できるというようなものではないので、事業者からの「配慮します」の一言で済ませられるものでもあります。でもそれでいいのでしょうか。井上先生からは「何でもかんでも景観を変えてはならないというものではないが、地域の景観はかけがえのないもので失われたら二度と取り戻すことはできない。何を残していくのか、地域のみんなが共通理解を持つことが大事」というメッセージをいただきました。

「そらまどアカデミア」は、今後も不定期(農閑期を中心に1〜2ヶ月おき)に開催していきたいと思います。普段とは違う視点から世界を覗くような、そんな場になったらと思っています。

次回をお楽しみに! 井上先生、ありがとうございました。

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