2023年2月7日火曜日

第5回そらまどアカデミア開催しました! 絵の具の性質から見る絵画の歴史

2月5日(日)、第5回そらまどアカデミアを開催いたしました。

内容に触れる前に、まずはこちらの駐車場の案内についての不手際を謝りたいと思います。店舗駐車場だけでは足りないので、近くの久保公民館の駐車場も使うようになっていたところではありますが、そちらの駐車場もいっぱいになり、駐車に手間取られたと思います。申し訳ありませんでした。

とはいえ、今後も駐車場の誘導の人員を手配することができないのでご迷惑をおかけすると思います。ご寛恕いただければと思います。

それから、プロジェクタを映すスクリーンが空調の風でユラユラ揺れてたのも良くなかったですね! 見づらいまではなかったですが、気になった方は多いかと。申し訳ありませんでした(しかしこれも空調がないと寒いし…悩ましいです)。

さて、今回のテーマは「絵の具の旅—中世ヨーロッパの絵の具の歴史とその作り方—」ということで、西洋の絵の具の歴史を「現代テンペラ画家」のきはらごうさんに語っていただきました。

「中世ヨーロッパの絵の具の歴史」というタイトルですが、講演は2万年前のラスコーの洞窟壁画から始まりました。旧石器時代の洞窟壁画では、顔料としては土が使われていました。では土をそのまま壁に塗ったのかというとそうではなく、水で溶いた土を口に含んで吹き付けたり、動物の血を混ぜたりして「絵の具」にしていました。唾液や血液といったタンパク質が固着材=糊剤(メディウム)の役割をしていたわけです。顔料+水+メディウムという絵の具の構造は、現在も2万年前も変わっていません

一気に時代が飛んで中世には、今回の講演の中心であるテンペラが現れます。テンペラとは卵をメディウムに使った絵の具の技法です。テンペラ技法が使われた有名な作品といえばボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』。

テンペラの作品は経年劣化が少なく、色が鮮やかに表現出来るという利点があります。また、卵の乳化作用によって水と油の両方を添加できる上に、固まると水にも油にも強いというのがテンペラの特徴。しかも固まる時に収縮しないので絵の具のひび割れがありません。確かに中世のテンペラ画は数百年経っているのにあまり傷んでいないですね。『ヴィーナスの誕生』も色鮮やかです。

しかしテンペラにはデメリットも大きかった。まず厚塗りが出来ないこと。そしてグラデーションやぼかしの技法がやりづらいこと。そして絵の具が保存できず、その都度ごとに自作する必要があるということです。そうしたデメリットを克服して開発されたのが油絵の具でした。

さらに16世紀には、木枠に布を張ってつくるキャンバスが登場。これは船の帆をつくる技術の副産物のようです。それまでは木の板や壁に描いていたのですが、こうして大きな作品をつくれるようになりました。そして油絵の具も、乾性油に揮発性油を混ぜ、顔料とともに練ることで粘度の調整ができるようになりました。これによって非常に細かい部分まで描くことが可能になります。レンブラントの『夜警』など細部まで描かれた大作は油絵ならでは。

産業革命が起こると、画家が自分で絵の具を調合していた時代は終わりを告げ、絵の具は「商品」になりました。このため野外に絵の具を持っていくことができるようになります。それまでは絵の具の調合道具などが必要で工房でないと絵を描くのは難しかったのですが、外で手軽に絵が描けるようになって、光の加減や空気の揺らぎといった一瞬の「印象」を絵画で表現しようというムーブメントが起こります(→印象派)。

そしてドイツのオットーによって1901年にアクリル樹脂が開発されると、これが絵の具のメディウムに活用され「アクリル絵の具」が誕生。いわゆる「ペンキ」ですね。1920年代には「メキシコ壁画運動」(メキシコのアイデンティティの確立のために民族主義的で大規模な壁画が盛んに制作された運動)が起こりますが、壁画は屋外であるため、耐久性のある画材が必要だったと言う事情もあり、アクリル絵の具が普及していきます。

なお、アクリル絵の具が芸術作品で使われた最初は、ピカソの『ゲルニカ』(1937)ではないかということです。『ゲルニカ』はご存じの通り横が8m近い超大作。ピカソは、納期(万博での展示)が迫っていたため、この超大作をたった1ヶ月で完成させるのです。反射の少ないマットな質感、大画面でも亀裂や剥離が起こらない、そして乾くのが早いといアクリル絵の具の特性から、ピカソは敢えてこの作品にアクリル絵の具を使ったのではないか、とのこと。確かに油絵の具だと乾くのに1週間くらいかかりますよね。ただし、『ゲルニカ』の絵の具を採取し分析することはできないため推測だそうです。

今までアクリル絵の具が優れた画材だとは思っていなかったのですが、講演を聞いて、テンペラ絵の具や油絵の具の短所を克服した、到達点的な絵の具なのだということがわかりました。そういわれてみれば、ペンキで大面積(大きな看板とかビルの壁面とか)を塗ることは比較的容易ですが、人類の歴史においてこんな大面積に彩色できるようになったのは現代になってからです。油絵の具で大面積に彩色するのは現実的に不可能でしょう。講演のおかげで、テンペラの面白さもさることながら、アクリル絵の具の優秀さに気付きました。

それから、これは講演後に個人的に質問してわかったことですが、なぜテンペラ作品には金箔が貼られたものが多いのか。

例えばこちらの『荘厳の聖母』(ジョット・ディ・ボンドーネ)。テンペラ技法で描かれた作品です。画面には金箔がふんだんに貼られております。

この金箔によって荘厳さや権威性を表しているわけですが、油絵時代には金箔があまり使われず、なぜこの時代に金箔が多用されるのだろう……と思っていました。

実はテンペラと金箔は相性がよく、逆に油絵と金箔は相性が悪いのだそうです。というのは、金箔の上に油絵の具を載せると剥離しやすく、また油絵の具は乾燥するときに収縮するため、上に貼った金箔にシワが出来る! 油絵の具の場合は、金箔の上でも下でも都合が悪いのです。

一方、テンペラは金箔の上にも描けるし、乾燥する時にも収縮しない。だから金箔が使えるんだとのことでした。なるほど! また、日本画も「膠(にかわ)テンペラ」でありテンペラ技法の一種であるため、日本画には金箔が使えるわけです。そうだったのかと膝を打ちました。

実際の講演は、2時間近いものでしたので内容盛りだくさんで、ここにまとめたのはごく一部です。私自身は絵を描いたりはしないのですが、自分でも絵を描く方にはもっと別の角度から興味深い点がいろいろあったと思います。

このような情報量の多い講演をしていただき、きはらさんにはこの場を借りて改めて感謝です。次回の「そらまどアカデミア」は未定ですが、また面白いものになるよう検討していきたいと思います。お楽しみに!

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