2024年8月9日金曜日

「そらまど」では新刊本の取り扱いも始めました

南薩の田舎暮らしの直営店「books & cafe そらまど」では、新刊本の取り扱いを始めました!

これまで「そらまど」で販売している本は、基本的に古書でした。それらは、みなさんからご寄附いただいたものです。

「本を10冊以上ご寄附いただいた方にはドリンク1杯サービス」をやっていることもあり、今でも処理しきれないくらい本はご寄附いただいております。

が、寄附ばかりに頼っていると、自分が置きたい本、売りたい本を陳列することはできません。そりゃそうだ。

せっかく地域唯一の書店をやっているのに、いただいた古書を並べているだけじゃ能がない。それに、新刊を仕入れることができたら、なんか面白いことできるかも…?

今、全国的に書店は減り続けていますが、代わりに「独立系書店」(専業の書店ではないが本を取り扱っている店や小規模な書店など、店主のこだわりで本を売っている店のこと)はどんどん増えているそうです。「そらまど」もその一つかもしれません。

また、新刊本の仕入れは、かつては高いハードルがあったのですが(主に預託金など)、最近、独立系書店が増えたことで、気軽に新刊本を仕入れることのできるサービスが整ってきました。

「そらまど」では、こうしたもののうち「Foyer(ホワイエ)」という楽天ブックスネットワークが提供しているサービスを使って本を仕入れることにしました。これは定価の83%で仕入れるのでほぼ利益はありませんが、返品も可能なサービスです。

【参考】Foyer
https://foyerbook.wixsite.com/foyer

とりあえず最初の発注としては、店主である私の得意分野…つまり明治維新関係の本を仕入れてみました。今回仕入れたのは、私が実際に読んで「すごく参考になりますよ!」と太鼓判を押せるものばかりです。このほか、妻の趣味で中世ヨーロッパやドイツ、小説なども入れました。これから徐々に新刊本のコーナーを充実させていきたいと思います。

それから、お客様にオススメの本を教えてもらって、それを仕入れるなんてこともできたらいいなあと思っています。ただ、今は本がすぐに絶版になってしまうので、オススメされた本が仕入れられないケースが多そうなのが問題ですが…。

まだまだ手さぐり状態ですが、「そらまど」が面白い空間になるよう、新刊本も工夫していきたいと思います。「そらまど」にいらしたら、新刊本の棚にもご注目ください!

2024年8月5日月曜日

第13回そらまどアカデミア開催しました。朱舜水から水戸学、そして明治維新へ

第13回そらまどアカデミア開催しました。

今回の講師は、絵師で唐通事(中国語の通訳)の小川景一さんです。そしてテーマは、儒学の話。タイトルは「海を渡ってきた儒学とその周辺…そして明治維新までの物語」。

どうして絵師が儒学の話を? と思った方もいるかもしれません。じつは、小川さんは儒学の流れを図像化するという、大変興味深い取り組みをしており、今回はその図像を紹介したいという思いで講演を依頼しました。

ところが! 開始前に大問題が勃発!

小川さんのPCがMacだったのです。私はてっきりWindowsかと思っていたので、Mac用の接続機器がありません。しかも無線接続がどうしてもできません。まさか、図像を紹介したいのに、語りのみでやってもらうしかない…⁉ と覚悟しましたが、地獄に仏とはこのこと。小川さんの友人のHさんが接続のアダプタを偶然持ってきていたので事なきを得ました。ギリギリセーフでした。Hさん、ありがとうございました(冒頭写真もHさんによるもの)。

さて、日本は中国からたくさんの文化を摂取しています。有名なのは古代の遣隋使・遣唐使ですね。鎌倉時代には、「渡来僧の世紀」と言われるような、たくさんの僧侶が東シナ海を行き来する時代がやってきます。さらにその後、戦国時代には、中国では明が滅亡して清が興ります。この時に、ある明の遺臣が日本へ救援を求めてやってきました。

それが、今回のキーバーソン、朱舜水(しゅ・しゅんすい)です。

「あるグループから朱舜水を調べてくれと言われ、中国の文献を当たってみると、(日本での文献はあんまりないのに)たくさん出てきて、そこには「明治維新を準備したのは朱舜水だ」みたいなことが書いてある」と小川さん。こうして小川さんは20年以上、朱舜水を追っかけてきたそうです。それにしても、どうして朱舜水が明治維新とつながるのか?

小川さん作。うずまきが面白い意匠

朱舜水は明の再興のためなのか何なのか、東シナ海を8回も行ったり来たりしているのですが、そんな彼を招聘したのが水戸光圀。そして朱舜水は江戸で南朝とその忠臣、楠木正成を「発見」します。中国人の朱舜水が、楠木正成の「忠」を発見するというのが面白い。

そしてその歴史観は、水戸光圀の大事業「大日本史」へと引き継がれ、歴史観を中心とした儒学である「水戸学」へつながっていきます。

そもそも、中国で儒教/儒学が生まれた孔子の時代から、歴史観は非常に重要な要素でした。中国では王朝の交替を「易姓革命」という理論に当てはめ、「天命」を受けた「天子」のシークエンスとして歴史を捉えました。

孔子やそれを受けた孟子の思想は、歴史や政治、人の生き方についてのものだったのですが、南宋の朱熹はこれを個別的事物から天までを直結させる壮大な理論に再編集します。ここに儒教の転換がありました。これが朱子学。

この理論の裏には、異民族王朝である元が、正統な(天命を受けた)中華王朝である宋を滅ぼしたという時代背景があります。朱子学には、理念的な正統性にこだわった朱熹の情念が横溢していました。

その情念が、同じく異民族王朝(清)に滅ぼされた明の遺臣である朱舜水に受け継がれ、王朝の正統性に異常にこだわる「大日本史」の水戸学へと結実していくのです。

そして水戸学では、王朝が変わっていない(=天皇家が存続している)日本こそ、正統な天子の治める中華である、という「日本こそ中華だ」論=中朝主義を生み出します。

ここで問題になるのが、天皇家が分裂した南北朝時代。水戸学では南北朝時代の扱いに困ります。それは、歴史とは「天命」を受けた「天子」のシークエンスであり、一本の筋である以上、王朝の分裂はありえないからです。よってどちらが正統かという喧々囂々の論争があり、結論としては三種の神器を持っている方が正統だということに落ち着きます。それで正統とされるのが、滅ぼされたはずの南朝なんですね。

なんだか倒錯した歴史観のように思いますが、この倒錯した歴史観が「真の為政者は将軍ではなく天皇」という、およそ歴史的事実とは異なった観念を実体化しました。そして幕末には水戸学の集大成ともいうべき『新論』という本を会沢正志斎が著し、ここで日本という国家の核心概念「国体」が鼓吹されるのです。

なお、朱子の理念を実践した結果、なんか違うんじゃないかとの結論に至ったのが王陽明。彼は7日間竹を見つめつづけ、それによって天理まで通じるかトライしたものの、最後に到達したのは天理ではなく自分の心でした。こうして王陽明は、心と実践を重んじる思想=陽明学をつくっていきます。

陽明学は為政者の思想にはなりませんでしたが、朱子学の思弁的な性格とは逆に行動を促す性格が濃厚だったので、下級武士など変革を夢見る人たちに大きな影響を与えます。西郷隆盛が陽明学を奉じていたのは有名ですよね。特に薩摩藩では王陽明の『伝習録』が愛読されました。

ところで、水戸光圀がもう一つ種をまいているのが国学。光圀は「大日本史」の編纂のために大量の史料を収集するのですが、その中で『万葉集』に読めないところがたくさんあるという問題を解決しようと、契沖(けいちゅう)という僧侶に解読を依頼します。

契沖はこれに応えて画期的な『万葉代匠記』という著作をまとめ、これが古代の文学研究である国学を切り開くものとなりました。この国学を大成したのが本居宣長ですが、宣長に私淑した平田篤胤の頃には不思議と国学と水戸学がまじりあい、そこに陽明学の行動力がプラスされて明治維新を引き起こすイデオロギーとなっていったのです。

小川さんの話は、だいたいこういうものでしたが、さすがに芸術家。「人の心が”発明”されたのは3000年前だとされている。それまでは人は神の命で生きていた」とか、「朱熹も王陽明も、大久保利通も吉田松陰も座禅・静座(瞑想)を行っている。瞑想によって深層意識に到達していたに違いない」とか、話は縦横無尽に展開し、小川さんならではの見方で儒学の歴史に分け入っていました。

なので、このテキストは小川さんの話の筋には則っているつもりですが、実際の話ぶりとは全く違うことを申し添えます(笑)

また、小川さんは自ら考案した図像について意外と解説しなかったため、小川さんの講演がひと段落してから私がしゃしゃり出て解説しましたので、その部分もちょっとだけ付け加えます。

まず、こちらの「小川的太極図説」をご覧ください。

小川さん作「小川的太極図説」
 

朱熹がその理論をまとめるのに、大きなインスピレーションを得た書物に周敦頤(しゅう・とんい)の『太極図説』がありました。これは、それまで文章で述べられてきた世界の成り立ちを図で示すという、それ自体イノベーティブなものだったのですが、今から見るとデザイン性に欠ける部分があります(←当たり前)。

これを小川さん流に再構築したのが上の図です。特に重要なポイントは、「万物化成」と書いている一番下の円(個別的事物の世界)から、天までが一直線に繋がっていること。朱熹は、個別的事物を追求することで天理に至るという思想を『大学』というテキストを編集することで発展させます。その思想の一つの源泉となったのが『太極図説』です。しかし元の『太極図説』では、個別的事物から天までの繋がりが明白ではありません。「小川的太極図説」はその点を明快にデザインで表しています。

次に、この「儒学から日本儒学へ」の図。

小川さん作「儒学から日本儒学へ」

これは、「儒学が尊皇攘夷思想を生みだし、明治維新や八紘一宇の元を形作った」ということを平易に表した図ですが、実は、江戸時代の儒学のメインストリームはこの図の中心である「水戸学」ではないんですね。

江戸時代の儒学の総本山は、江戸幕府が作った昌平黌(しょうへいこう)という儒学の学校でした。それを準備したのは、この図では右上にある林羅山。そして民間の方では、この図では左から2番目にある山崎闇斎の系統が人気がありました。にもかかわらず、日本儒学を水戸学を中心として再編集したのがこの図の面白いところです。そして画面の中心には、「大日本史編纂」という事業が書いています。

これは、水戸藩が藩を挙げて編纂した日本の歴史です。水戸学が大きく発展したのは、理念的なことよりも、この具体的なプロジェクトに携わっていたという事情が大きい。そして水戸光圀は、中国の「正史」とよばれる歴史書になぞらえて日本の歴史を編集します。そこで「天子=皇帝」を天皇に当て嵌め、天子のシークエンスを天皇の「万世一系」に変換するわけですね。

これが天皇中心の明治国家の核心です。だから、朱舜水から水戸学が発展し、明治維新に繋がっていく、ということになるんです。

ともかく、日本の儒学を水戸学、特にその「大日本史編纂」を中心に据えて描いたのがこの図のオリジナリティ。

小川さんは他にも何枚かの図像を準備してくださっていたのですが、申し訳なかったのは、プロジェクタの解像度が悪く、またそうでなくてもスクリーンが小さくて、細かい文字が全然読めなかったことです。図像が中心なのに、これはもったいなかった。紙に印刷して配ればよかったのに、という意見がありましたが、まったくその通りでした。

また、今回は試験的にYouTubeでライブ配信もいたしました。あまりうまくはいきませんでしたが(プロジェクタの画像なんかは全然見えなかった)、とりあえず配信自体はできたようです。今後、そらまどアカデミアは有料でライブ配信を行うことも検討してみたいと思います。

それらから、私がしゃしゃり出たこともあって、予定時刻を1時間もオーバーしてしまったことを、改めてお詫び申し上げます。今回はお詫びすべきことが多いです。

それにしても、私にとっては今回の講演は大変楽しいものでした。小難しい印象がある儒学を、こんなに楽しくしゃべる人を小川さんの他に知りません。なのに、小川さん曰く「儒学なんて、そんなに入れ込んでないから」。じゃあ、入れ込んでるものについて語ってもらえたら、もっともっと面白いのでは…? 小川さんには2回目の講演もお願いしたいと思っております。

改めてありがとうございました!

2024年8月2日金曜日

今年のお米の販売を開始しました。値上げしちゃってすみません。

2024年の新米の販売を開始しました。

今年のお米の出来は…、正直言いますと、例年より少し劣るような気がします。

今年は、稲刈り前からなんだか雨が多く、特に4月は梅雨みたいに雨が降りました。そのおかげで水は豊富で助かりました。

水が豊富だと雑草は生えにくいので、今年はこの数年間で一番、草取りの労が少ない年でした。草取りだけで何週間も使う年もあるので、とてもありがたかったです。

ところが! 今年はジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)という害虫(正確には巻き貝)が大量発生したため、かなりの被害を受けてしまいました。そして、「無農薬」を標榜しているにもかかわらず農薬を使用してしまいました。ただし有機栽培でも使える農薬ですので、ご理解いただければと思います。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

【参考】「無農薬」って言ってるのに、農薬を使ってしまいました
https://nansatz-kurashi.blogspot.com/2024/06/blog-post.html

しかし、この記事でも書いていますが、自然に優しい農薬であるためか効き目はいまいちで、その後も被害がじわじわと続きました。

さらに、夏に入るとご承知の通りの猛暑が始まり、なんだか生育が弱かったような気がします。稲自体は熱帯の植物であるため暑さには強いはずなのですが、コシヒカリは低温に強い稲なので、逆に高温は苦手な気がします。特に7月後半からの猛暑には、なんだか稲もだれていた感じでした。

そんなわけで、今年は収量がやや少なく、また小米が多いようです。まだ食べてはいないので味の方はわかりません。せめて味は美味しいといいんですけどね。

そして、このように品質は十分とはいえないにもかかわらず、昨年までに比べてかなり値上げをすることにしました。実は昨年もちょっと値上げしたのですが、今回はさらに値上げをすることになり心苦しいです。しかし、直接の生産資材のみならず、堆肥、段ボール、燃料、緑肥の種など、何もかもがかなり値上げされている状況です。ご理解いただければ幸いです。

それでも、無農薬・無化学肥料のお米としては、まだリーズナブルな方ではないでしょうか。というか、今年は普通のお米がとっても高いですよね。近所のスーパーでは、5㎏で2500円を超えています。最近、お米の(日本全体の)在庫量が不足しているためお米の値段が上がってるんですよね。無農薬・無化学肥料のお米で5㎏3,200円はむしろ安い方かもしれません。

昨日、インターネットで販売を開始いたしましたら、例年と変わらず続々とご注文をいただきホッとしています。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

↓ご注文はこちらから
【南薩の田舎暮らし】【2024年産】無農薬・無化学肥料のお米(5kg)
5㎏で3,200円。10㎏は6,000円。送料別。